彼との事

彼は私を抱き寄せない。だから、私がいつも彼に抱きつく。それだけのこと。

彼は私をまるでこわれもののように優しくそっと触れる。それは暗闇の中でなにかを探るようにこっそりと、ひっそりとした手つきで。彼に縋り付くように顔を埋めている私の背中に手を回し、程なくして私の髪を一本残らず慈しむようにして頭を撫でる。私がその一連の行為にうっとりと目を細め、心から彼を愛しく思うことを知らずに、彼は私の頭を撫でる。

ただ、それだけのこと。